なぜ残る?JR四国キハ40系の原型エンジンの秘密と現在

なぜ残る?JR四国キハ40系の原型エンジンの秘密と現在

全国のJR各社がエンジンを載せ替えて性能向上を図る中、なぜかオリジナルの心臓を守り続けた車両があります。それが、JR四国キハ40系の原型エンジン搭載編成です。この記事では、なぜこの車両が鉄道ファンに人気の原型エンジン車両として今なお走り続けているのか、その理由を深く掘り下げます。

具体的には、原型エンジンの特徴と性能から、多くの人を惹きつけるキハ40系原型エンジンの音や振動の魅力、そしてJR四国仕様のキハ40系と他地域との違いを明らかにします。さらに、エンジン更新車との違いを比較しつつ、現在のキハ40系の原型エンジン搭載車の運行路線や、厳しい原型エンジンの整備と維持管理の現状にも迫ります。多くのファンが気にかけているキハ40系の引退・保存予定と原型エンジンの行方、そしてJR四国のローカル線とキハ40系の思い出が織りなす物語まで、多角的に解説していきます。

記事のポイント

  • なぜJR四国だけがキハ40系のエンジンを交換しなかったのか、その背景にある地理的・経営的な理由
  • 国鉄時代の技術が生んだ原型エンジンの性能特性と、その独特な音や振動が持つ魅力
  • 徳島地区での現在の運用状況と、今後の後継車両導入に伴う引退までのスケジュール
  • 他社の近代化された車両とは一線を画す、原型エンジン搭載車が持つ歴史的な価値
目次

なぜ現存?JR四国キハ40系の原型エンジンの秘密

なぜ現存?JR四国キハ40系の原型エンジンの秘密
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  • 原型エンジンの特徴と性能
  • キハ40系の原型エンジンの音や振動の魅力
  • JR四国仕様のキハ40系と他地域との違い
  • エンジン更新車との違いと比較
  • 鉄道ファンに人気の原型エンジン車両とは

原型エンジンの特徴と性能

キハ40系が搭載する原型エンジン「DMF15HSA」の最大の特徴は、その重厚な車体に対して出力が控えめである点にあります。このエンジンは、国鉄が標準採用していた予燃焼室式の水平直列6気筒ディーゼルエンジンで、定格出力は220馬力(PS)です。

しかし、安全性を最優先した結果、キハ40系の車体重量は約37トンにも達しました。この重さに対して220馬力という出力は十分とは言えず、特に発進時や上り坂での加速性能の低さは「非力」と評される大きな要因となりました。この低い出力重量比が、後年JR各社がエンジン換装へと踏み切る直接的なきっかけになったのです。

また、エンジンと組み合わされる液体変速機「DW10」の特性も、走行性能に影響を与えています。この変速機は、エンジンと車輪が直結される「直結段」への切り替え速度が時速約60kmと高めに設定されていました。そのため、駅間の距離が短いローカル線で多用される低中速域では、効率の良い走りができず、加速の鈍さに拍車をかけることになったのです。これらの点から、原型エンジンの性能は、現代の鉄道車両と比較すると決して高いものではないと言えます。

キハ40系の原型エンジンの音や振動の魅力

キハ40系の原型エンジンの音や振動の魅力
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性能面では課題を抱える原型エンジンですが、その一方で多くの鉄道ファンを惹きつけてやまない独特の魅力を持っています。それが、エンジンと変速機が一体となって奏でる、機械的で重厚な走行音です。

アイドリング時に響く「カリカリカリ」という乾いた音は、近年の静かなディーゼルエンジンでは聞くことのできない、まさに国鉄時代の音風景そのものです。そして、列車が駅を発車する際には、まずエンジン回転数が上がり、一拍置いてから液体変速機が作動して「グォーン」という甲高い唸り音と共にゆっくりと加速していきます。この一連の音と、床下から伝わるダイレクトな振動こそが、原型エンジン搭載車の最大の魅力と考えるファンは少なくありません。

特に、変速段から直結段へ切り替わる瞬間のわずかな衝動と音の変化は、車両が生き物であるかのような感覚を与えてくれます。静粛性や快適性が追求される現代の車両とは対極にあるこの荒々しさが、キハ40系の原型エンジンの個性を際立たせ、多くの人々にとって忘れがたい乗車体験となっているのです。



JR四国仕様のキハ40系と他地域との違い

JR四国が保有するキハ40系は、他地域の車両とは異なる、独自の改造が施されている点が特徴です。最も大きな違いは、原型エンジンを維持し続けたことですが、それ以外にも四国の運用実態に合わせた合理的な手が加えられています。

代表的な改造例が、両運転台車両であるキハ40形2000番台のトイレを撤去し、その跡地に座席を増設した点です。これにより、定員が92名から130名へと大幅に増加し、ラッシュ時の輸送力確保に大きく貢献しました。ただし、この改造によってキハ40形は単独での長距離運用が難しくなり、必ずトイレ付きのキハ47形と編成を組むという、JR四国ならではの運用スタイルが生まれました。

また、接客設備も近代化されています。屋根上には冷房装置が2基搭載され、夏の快適性が向上しました。興味深いのは、この冷房化に合わせて暖房装置も、従来のエンジン冷却水を利用した温水式から、冷房用の電源装置を利用する電気式に変更されたことです。これは、電源系統を一つにまとめることで、メンテナンスの効率化を図るという、JR四国の合理的な設計思想を反映しています。外観も、アイボリーの車体に水色の帯を巻いたJR四国標準色に塗り替えられ、他社のキハ40系とは一目で区別がつきます。

エンジン更新車との違いと比較

エンジン更新車との違いと比較
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JR四国が原型エンジンを維持した一方、他のJR各社はキハ40系の近代化策として、ほぼ例外なくエンジンを高出力な新型に換装しました。このエンジン更新車とJR四国の原型車を比較すると、性能面に圧倒的な差があることが分かります。

JR各社におけるエンジン性能比較

事業者名主な換装エンジン形式換装後出力 (PS)原型比出力向上率
JR北海道N-DMF13HZB など330+50%
JR東海C-DMF14HZB350+59%
JR西日本SA6D125H-1A300 (デチューン)+36%
JR九州SA6D125H-1A など300 (デチューン)+36%
JR四国(換装実施せず)2200%

表が示す通り、他社では原型比で30%から60%近い出力向上を実現しています。これにより、加速性能や勾配を登る能力が劇的に改善され、ダイヤ編成の自由度が高まりました。また、新型エンジンは燃費性能や信頼性にも優れるため、メンテナンスコストの削減にもつながっています。

これに対して、JR四国の原型車は国鉄時代とほぼ同じ性能のままです。この差が生まれた最大の理由は、運用線区の特性にあります。JR四国のキハ40系が主に活躍する徳島地区の路線は、急な勾配がほとんどない平坦な地形です。そのため、多額の費用をかけてエンジンを高出力化しても、所要時間の短縮効果が限定的であり、費用対効果が見合わないという経営判断が下されたのです。経営基盤が比較的弱いJR四国にとって、これは極めて合理的な選択でした。

鉄道ファンに人気の原型エンジン車両とは

鉄道ファンに人気の原型エンジン車両とは
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鉄道ファンにとって「原型エンジン車両」が特別な存在である理由は、その車両が持つ「真正性」と「希少性」に集約されます。キハ40系の場合、原型エンジンを搭載した車両は、国鉄時代に設計・製造された当時の姿に最も近い、いわば「オリジナル」の状態を保っていると考えられます。

多くの車両が効率や性能を求めて改造されていく中で、変わらずにあり続ける姿は、それだけで価値を持ちます。前述の通り、独特のエンジン音や走行中の振動は、原型エンジンでしか味わえない貴重な体験です。この音や乗り心地を求めて、全国からファンが訪れるほどです。

JR四国のキハ40系は、この「原型」を商業路線で日常的に体験できる、ほぼ最後の存在でした。博物館で静態保存されている車両とは異なり、日々の通勤・通学輸送を担い、地域の生活と共に走り続けてきた「生きた化石」とも言えるでしょう。引退が近づくにつれてその希少価値はさらに高まり、単なる古い車両としてではなく、昭和の鉄道史を今に伝える文化的な遺産として、多くのファンから愛される存在になっているのです。



終焉へ向かうJR四国キハ40系の原型エンジンの今

終焉へ向かうJR四国キハ40系の原型エンジンの今
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  • キハ40系の原型エンジン搭載車の運行路線
  • 原型エンジンの整備と維持管理の現状
  • ローカル線とキハ40系が紡いできた思い出
  • キハ40系の引退・保存予定と原型エンジンの行方
  • 語り継ぎたいJR四国キハ40系の原型エンジン

キハ40系の原型エンジン搭載車の運行路線

長年にわたり四国各地で活躍してきたキハ40系ですが、近年、その運用範囲は徳島地区の非電化路線にほぼ限定されています。具体的には、徳島駅を拠点とする以下の3路線が、最後の活躍の舞台です。

  • 高徳線(徳島~引田 間など)
  • 牟岐線(徳島~阿南・牟岐 間など)
  • 鳴門線(池谷~鳴門 間)

これらの路線は、急勾配がほとんどない平坦な区間が続くため、原型エンジンの非力さが運行上の大きな障害となりにくいという特徴があります。

現在の主な役割は、朝夕のラッシュ時間帯における輸送力の確保です。キハ40系の大きな車体は、通勤・通学で混雑する時間帯の多客輸送に適しています。一方、利用者が少ない日中の閑散時間帯は、徳島運転所で待機していることが多く、一日を通して運用される列車は少なくなりました。また、2024年3月のダイヤ改正でキハ40形の単独での定期運用が消滅したことは、その活躍が最終段階にあることを示す出来事と言えるでしょう。

原型エンジンの整備と維持管理の現状

原型エンジンの整備と維持管理の現状
DMF15HSAエンジンイメージ①

製造から40年以上が経過した原型エンジンを維持し続けることは、容易なことではありません。最大の課題は、補修用部品の確保が年々難しくなっている点です。DMF15HSAエンジンをはじめ、国鉄時代に設計された部品の多くはすでに製造が終了しています。

このため、JR四国では、廃車となった同型車両から部品を取り外して再利用する「部品取り」などを行いながら、なんとか稼働状態を維持しているのが実情です。これは、現場の整備担当者の高い技術力と地道な努力があってこそ可能となっています。

しかし、部品の在庫には限りがあり、車両自体の老朽化も進行しています。車体の疲労や配線の劣化など、エンジン以外の部分でもメンテナンスには多大な労力がかかっています。このような状況を踏まえると、安全な運行を永続的に確保していくには限界が近づいていると考えられます。環境負荷の観点からも、旧式のディーゼルエンジンは現代の基準に合致しなくなっており、新型車両への置き換えは避けられない流れと言えるのです。

ローカル線とキハ40系が紡いできた思い出

JR四国のキハ40系は、単なる輸送手段ではなく、沿線に暮らす人々の日常に溶け込み、数多くの思い出を紡いできました。通学の列車で友人と語り合った日々、車窓から眺めた田園風景、祭りの日に増結された満員の列車。その一つひとつの光景の中に、キハ40系の姿がありました。

アイボリーに水色の帯をまとった車両は、徳島のローカル線の風景を象徴する存在です。列車が鉄橋を渡る「ゴトゴト」という音や、踏切の警報音と共に近づいてくるエンジンの響きは、多くの人の原風景の一部として記憶に刻まれています。

近年では、その希少性から多くの鉄道ファンが訪れ、カメラを向ける姿も日常的な光景となりました。地元の人々にとっては当たり前の存在であったキハ40系が、全国的に見れば貴重な車両であることを再認識するきっかけにもなっています。車両が引退するということは、輸送サービスが新しい形に変わるだけでなく、長年親しんできた一つの時代の音や景色が失われることも意味します。それだけに、キハ40系が引退するまでの残された時間は、沿線の人々やファンにとって、かけがえのないものとなるでしょう。

キハ40系の引退・保存予定と原型エンジンの行方

キハ40系の引退・保存予定と原型エンジンの行方
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JR四国は、キハ40系を含む国鉄時代に製造された気動車を置き換えるため、新型のハイブリッド式車両を導入することを正式に発表しています。これにより、原型エンジンを搭載したキハ40系の引退は確定的なものとなりました。

後継のハイブリッド車両導入

後継となるのは、近畿車輛が製造するシリーズハイブリッド方式の車両です。これは、ディーゼルエンジンで発電し、その電力を使ってモーターを駆動させる仕組みで、ブレーキ時に発生するエネルギーを蓄電池に貯めて再利用することもできます。従来の気動車と比較して、二酸化炭素の排出量削減や騒音の低減といった環境性能の向上、そして信頼性やメンテナンス性の向上が期待されています。

段階的な引退スケジュール

車両の置き換えは段階的に進められます。

  1. 2025年12月: 量産先行車(2両編成×2本)が完成し、性能試験を開始。
  2. 2027年度以降: 量産車の導入を順次開始。

この計画では、キハ40・47形だけでなく、他の国鉄形気動車も含めた合計86両が置き換えの対象です。報道などによれば、キハ40系の完全な引退は2030年頃になると見込まれています。

引退後の車両の保存予定については、現在のところ公式な発表はありません。しかし、その歴史的価値の高さから、一部車両の保存を望む声は多く、今後の動向が注目されます。いずれにしても、徳島の地で国鉄時代の音を響かせ続けた原型エンジンの物語は、まもなくその終着駅を迎えようとしています。

語り継ぎたいJR四国キハ40系の原型エンジン

語り継ぎたいJR四国キハ40系の原型エンジン
DMF15HSAエンジンイメージ②

この記事では、JR四国のキハ40系がなぜ原型エンジンを維持し続けたのか、その理由と魅力、そして迫る引退について解説してきました。最後に、この貴重な車両が私たちに残してくれたものを、いくつかのポイントで振り返ります。

  • JR四国はキハ40系のエンジンを換装しなかった唯一のJR旅客会社
  • エンジン非換装の背景には徳島地区の平坦な地形と厳しい経営事情があった
  • 原型エンジンDMF15HSAは220馬力で現代の基準では非力
  • 重い車体と変速機の特性が相まって加速性能に課題を抱えていた
  • 一方で独特のエンジン音や振動は多くのファンを魅了する大きな価値を持つ
  • 他社の更新車は300馬力超の性能で走行性能が大幅に向上している
  • JR四国仕様はトイレ撤去による定員増など独自の改造が施された
  • 現在の運用は徳島地区の非電化路線(高徳線・牟岐線・鳴門線)が中心
  • 主な役割は朝夕ラッシュ時の輸送力確保
  • 部品調達の困難化や車体の老朽化により維持管理は限界に近い
  • 後継車両として新型のハイブリッド式車両の導入が決定している
  • 2027年度から量産車の導入が始まり段階的に置き換えられる
  • キハ40系の完全な引退は2030年頃と見込まれる
  • 意図せずして国鉄時代の姿を現代に伝える「動く博物館」となった存在
  • その引退は昭和の鉄道技術が作り出した一つの時代の終わりを意味する



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