徳島県南部を結ぶ重要なローカル線、牟岐線。その車両運用状況について、詳しく知りたいと思っていませんか。特急が廃止され、新しい時代の運行形態へと移行した今、どのような車両が走り、どんなダイヤが組まれているのか、気になっている方も多いはずです。
この記事を読めば、現在の牟岐線の車両運用状況の全貌がわかります。具体的には、運用されている車両形式一覧や、牟岐線で活躍するディーゼルカーの紹介はもちろんのこと、ラッシュ時と閑散時の運用の違いや運用区間ごとの車両編成、さらには主な運用ダイヤと編成まで詳しく解説します。加えて、ワンマン運転の現状やそれを支える車両検査・整備体制について、他路線との直通運転事情、そして今後の車両運用計画と課題にも触れていきます。
- 牟岐線で現在活躍する車両の形式と特徴がわかる
- 区間や時間帯による具体的な運用方法がわかる
- 特急廃止後の運行ダイヤの全貌がわかる
- 今後の車両計画や路線が抱える課題がわかる
現在の牟岐線の車両運用状況を支える車両たち

- 運用されている車両形式一覧
- 牟岐線で活躍するディーゼルカーの紹介
- 効率化を支える車両検査・整備体制について
- 今後の車両運用計画と課題とは
運用されている車両形式一覧

現在の牟岐線では、主に4つの形式のディーゼルカー(気動車)が日々の運行を担っています。これらの車両は、導入された時代や目的が異なり、それぞれが独自の特徴を持っています。
中心的な役割を果たしているのは、JR四国になってから導入された1500形、1200形、1000形の3形式です。これに加えて、国鉄時代に製造されたキハ47形も、少数ながら運用に入っています。
各車両の主な特徴を比較すると、その違いがよく分かります。
項目 | 1500形 | 1200形 | 1000形 | キハ47形 |
導入/改造年 | 2006年~ | 2006年~ (改造) | 1990年~ | 1977年~ (国鉄) |
機関出力 | 450PS | 400PS | 400PS | 220PS |
最高速度 | 110km/h | 110km/h | 110km/h | 95km/h |
特徴 | 環境性能が高い バリアフリー対応 | 1000形を改造 1500形と連結可能 | JR四国初の自社開発 3扉構造 | 国鉄時代の設計 2扉デッキ付き |
このように、牟岐線では環境に配慮した最新鋭の車両から、長年にわたり活躍してきたベテラン車両まで、多彩な顔ぶれが揃っているのです。これらの車両が、輸送需要に応じて巧みに組み合わされて運用されています。
牟岐線で活躍するディーゼルカーの紹介
牟岐線の列車は、個性豊かなディーゼルカーによって運行されています。ここでは、それぞれの形式について、もう少し詳しく見ていきましょう。
最新鋭の主力車両 1500形
2006年に登場した1500形は、現在の牟岐線で最も新しい主力車両です。環境性能に優れる「コモンレール式エンジン」をJRグループの気動車で初めて採用し、排気ガスを大幅に削減しました。車体には「ECO」のロゴが描かれています。また、床を低くして乗降口の段差をなくすなど、バリアフリーに配慮した設計も大きな特徴と言えます。
新旧車両の橋渡し役 1200形
1200形は、全くの新車ではなく、後述する1000形を改造して生まれました。この改造の最大の目的は、最新の1500形と一緒に連結して走れるようにすることです。外観は1500形に合わせた緑色の塗装に変わりましたが、エンジンなどの基本的な走行性能は1000形のものを引き継いでいます。限られた予算の中で、新旧車両を効率よく運用するための工夫から生まれた形式です。
JR四国初のオリジナル車両 1000形
1990年に登場した1000形は、JR四国が発足して初めて自社で開発した車両です。ラッシュ時の乗り降りをスムーズにするための3つのドアや、快適な乗り心地を実現する空気バネ台車など、当時としては先進的な設計が取り入れられました。一部は1200形に改造されましたが、未改造の車両も依然として活躍しています。
国鉄からのベテラン キハ40系・47形
キハ40形とキハ47形は、全国のローカル線で活躍した国鉄設計の車両です。製造から40年以上が経過しており、燃費や性能の面では新しい車両に劣ります。そのため、牟岐線での運用は朝と夜の一部列車に限られており、近い将来、後述する新型車両への置き換えが計画されています。
効率化を支える車両検査・整備体制について

牟岐線の安定した運行は、計画的な車両検査と効率的な整備体制によって支えられています。特に、2025年3月のダイヤ改正は、車両運用とメンテナンスのあり方を大きく変える契機となりました。
この改正で牟岐線の特急「むろと」が廃止されると同時に、徳島地区を発着する他の特急列車についても、使用車両が2600系・2700系といった新型に統一されました。これにより、これまで特急用として様々な形式が混在していた状況が解消され、整備に必要な部品の種類や作業手順をシンプルにすることができたのです。これは、メンテナンス作業の効率化とコスト削減に直結します。
また、利用が少なかった特急の運用から車両を解放することで、車両の走行距離を平準化し、検査周期を最適化することが可能になります。これもまた、整備体制の負担を軽減する効果があります。
言ってしまえば、一連の車両運用の見直しは、単なる列車の廃止ではなく、整備体制の合理化という側面も持っているのです。限られた人員と予算の中で鉄道網を維持していくために、このような裏方の体制をいかに効率化するかが、きわめて大切なポイントとなっています。
今後の車両運用計画と課題とは
牟岐線の車両運用は、将来に向けて新たなステージへと進もうとしています。その中心となるのが、新型ハイブリッド気動車の導入計画です。
新型ハイブリッド気動車の導入
JR四国は、国鉄時代に製造されたキハ40系・47形などの老朽化した車両を置き換えるため、新型ハイブリッド気動車の導入を公式に発表しています。計画によれば、2025年12月以降に最初の車両が登場し、順次、旧型車両と交代していく予定です。この新型車両は、燃料消費量や排出ガスを大幅に削減できる環境にやさしい車両であり、乗り心地の向上も期待されています。この導入により、牟岐線の車両はさらに近代的になり、サービスの質も向上するものと考えられます。
路線が抱える課題
一方で、牟岐線はいくつかの課題も抱えています。その一つが、阿南駅より南の区間における利用者の極端な減少です。鉄道を維持するための採算ラインを大幅に下回っているのが実情であり、鉄道単独での存続は厳しい状況にあります。
また、観光の目玉である阿佐海岸鉄道のDMV(デュアル・モード・ビークル)との接続という重要な役割がありながら、遠方からのアクセスを担っていた特急列車が廃止されたことで、広域からのアクセス利便性が低下したという指摘もあります。観光振興と日常の足の確保という二つの側面を、今後どのように両立させていくかが問われます。これらの課題に対し、鉄道とバスの連携強化など、新たな対策が求められています。
牟岐線の車両運用状況から見る運行戦略

- 主な運用ダイヤと編成パターン
- ラッシュ時と閑散時の運用の違い
- 運行の要となる運用区間ごとの車両編成
- コスト削減の要、ワンマン運転の現状
- 利用の幅を広げる他路線との直通運転事情
- まとめ:牟岐線の車両運用状況の現在地
主な運用ダイヤと編成パターン
2025年3月の特急「むろと」廃止以降、牟岐線のダイヤは普通列車のみで構成されており、その運行パターンは区間によって大きく異なります。これは、利用実態に合わせて輸送力を最適化する戦略の表れです。
徳島~阿南間:利便性の高いパターンダイヤ
徳島市と県南部の中心都市である阿南市を結ぶ区間は、牟岐線で最も利用者が多い区間です。このため、日中の9時台から20時台にかけては、徳島駅を発車する時刻が毎時ほぼ同じになる「パターンダイヤ」が採用されています。おおむね30分に1本の間隔で列車が運行され、通勤・通学や日常の移動手段としての利便性が確保されています。編成は、輸送力を確保するために2両編成での運転が基本となります。
阿南~阿波海南間:地域の実情に合わせたダイヤ
一方、阿南駅より南の区間では、沿線人口の減少を反映して列車の本数が大幅に少なくなります。日中の運転間隔は2時間に1本程度となり、コストを抑えるために1両(単行)での運転が主体です。このように、路線全体で画一的なサービスを提供するのではなく、区間ごとの需要にきめ細かく対応したダイヤと編成パターンを組むことで、効率的な路線運営が図られています。
ラッシュ時と閑散時の運用の違い

牟岐線の車両運用は、一日のうちでも時間帯によって柔軟に変化します。特に、利用者が集中する朝夕のラッシュ時と、比較的落ち着いている日中の閑散時では、運用の仕方に明確な違いが見られます。
ラッシュ時、特に朝の徳島方面への通勤・通学時間帯には、多くの乗客に対応するため、車両を2両連結した編成が主体となります。例えば、1500形を2両、あるいは1500形と1200形を連結した編成などが用いられ、十分な輸送力を確保しています。このようにして、混雑の緩和が図られています。
これに対して、利用者が少なくなる日中の閑散時間帯には、効率を重視した運用に切り替わります。特に阿南駅より南の区間では、1500形などの車両が1両(単行)で運行されるのが基本です。これにより、燃料消費や車両の消耗を抑え、運行コストを最小限にしています。
このように、需要の波に合わせて編成の長さを変えることは、鉄道経営における基本的な工夫の一つです。牟岐線では、この原則に忠実な、きめ細かく合理的な車両運用が行われているのです。
運行の要となる運用区間ごとの車両編成
前述の通り、牟岐線の車両編成は、運行される区間の特性によって明確に使い分けられています。この区間ごとの戦略的な車両配置が、現在の牟岐線の運行を支える要となっています。
通勤・通学輸送を担う「徳島~阿南」間
徳島市と阿南市を結ぶこの区間は、牟岐線の中で最も輸送需要が高い「動脈」部分です。したがって、車両編成も輸送力確保が最優先されます。主力である1500形が2両連結で運用されるほか、1500形と1200形、あるいは1000形同士を組み合わせた2両編成が頻繁に投入されます。これにより、朝夕のラッシュ時だけでなく、日中の買い物などでの利用にも対応できる体制を整えています。
地域輸送に特化する「阿南~阿波海南」間
阿南駅を境に南の区間へ入ると、路線の性格は一変します。沿線人口が少なく、利用者が限られるため、運行の効率化が徹底されています。ここでの基本は、1500形や1000形といった車両を1両(単行)で運用するスタイルです。最小限のコストで鉄道サービスを維持するための、現実的で合理的な選択と言えます。
このように、路線を二つの異なる性格を持つ区間として捉え、それぞれに最適な車両編成を割り当てることで、JR四国は限られた経営資源を最大限に活用しているのです。
コスト削減の要、ワンマン運転の現状

現在の牟岐線における普通列車は、そのほとんどが運転士一人で運行業務を行う「ワンマン運転」で運行されています。これは、路線全体のコストを削減し、経営を効率化する上で非常に重要な施策です。
以前は特急「むろと」が運行されており、この列車には運転士の他に車掌の乗務が必須でした。しかし、2025年3月のダイヤ改正で「むろと」が廃止されたことにより、牟岐線を定期運行する列車で車掌の乗務を必要とする列車は基本的になくなりました。これにより、人件費の削減と、乗務員を他の必要な路線や業務へ再配置することが可能になったのです。
もともとJR四国が開発した1000形気動車は、ラッシュ時の乗降時間短縮と閑散時のワンマン運転の両方に対応できるよう、設計段階から工夫が凝らされていました。このような車両側の準備も、スムーズなワンマン運転化を後押しした要因の一つと考えられます。
もちろん、安全確保が大前提です。運転士は運転業務に加えて、ドアの開閉や乗客の安全確認、運賃の収受といった業務も担うため、高い集中力が求められます。厳しい経営環境にある地方交通にとって、ワンマン運転は路線を維持していくための不可欠な運行形態となっています。
利用の幅を広げる他路線との直通運転事情
牟岐線の列車は、線内での折り返し運転が基本となっており、他の路線へ直接乗り入れる「直通運転」は現在、定期列車では行われていません。利用者が他の路線へ向かう場合は、起点である徳島駅での乗り換えが必要になります。
徳島駅は、高松方面へ向かう高徳線や、阿波池田方面へ向かう徳島線などが集まるターミナル駅です。このため、牟岐線のダイヤは、これらの他路線との接続が考慮されて組まれています。例えば、高松方面からの特急「うずしお」から、牟岐線の阿南方面行き普通列車へスムーズに乗り換えられるように、発着時刻が調整されています。
ただ、直通運転がないことによるデメリットも存在します。乗り換えの手間が発生するため、特に大きな荷物を持った旅行者や、高齢の利用者にとっては負担となる場合があります。
一方で、直通運転を行うと、一方の路線で遅延が発生した場合に、もう一方の路線へ影響が波及しやすいという側面もあります。運行系統を分けておくことで、ダイヤの乱れを最小限に食い止め、安定した運行を確保しやすくなるというメリットもあるのです。現状の運用は、定時運行の維持と、徳島駅での乗り換え利便性のバランスを取った結果であると考えられます。
まとめ:牟岐線の車両運用状況の現在地
この記事では、現在の牟岐線における車両運用の実態と戦略について、多角的に解説してきました。最後に、その重要なポイントをまとめます。
- 現在の牟岐線は全列車が普通列車で運行されている
- 主力車両は環境性能に優れた1500形ディーゼルカー
- 既存の1000形を改造した1200形も活躍している
- 国鉄時代からのキハ40・47形はごく一部の運用に留まる
- 2025年12月以降、新型ハイブリッド気動車の導入が始まる
- 新型車両導入により国鉄形車両は順次引退する見込み
- 徳島~阿南間は日中に約30分間隔のパターンダイヤが組まれている
- 阿南以南の区間は運行本数が少なく2時間程度間隔が空く時間帯がある
- ラッシュ時は2両編成、閑散時は1両での単行運転が基本
- 区間ごとの需要の違いに応じて車両編成を柔軟に変更している
- ほとんどの列車が運転士のみで運行するワンマン運転である
- 特急廃止により車両整備や乗務員運用が効率化された
- 他路線への直通運転はなく徳島駅での乗り換えが基本となる
- 阿南以南ではバス事業者との共同経営という全国初の試みが行われている
- 終点の阿波海南駅では世界初のDMVに接続している