徳島県南部にお住まいの方や、この地域を訪れる予定の方で、牟岐線と徳島バスの共同経営について調べているものの、具体的に何がどう便利になったのか、まだよく分からないと感じていませんか。この取り組みは、徳島県南部の公共交通が抱える課題を解決するために始まり、その導入の背景と目的を知ることが理解の第一歩となります。
この記事では、牟岐線と徳島バスの共同経営の概要から、JRのきっぷでバスに乗車できる共同運賃制度、乗り換えがスムーズになるよう実現するダイヤ調整といった具体的なサービス向上の取り組みまで、網羅的に解説します。さらに、移動が便利になるという共同経営のメリットはもちろん、地域活性化への効果、実際に寄せられている利用者の声、そして今後の共同経営による展望と課題にも深く触れていきます。
この記事を読み終える頃には、牟岐線と徳島バスの共同経営の全貌が明らかになり、徳島県南部での移動をより計画的に、そして便利にするための知識が身についているはずです。
- 共同経営が始まった背景と具体的な仕組み
- JRきっぷを使ったバスの乗り方と運賃ルール
- 利用者にもたらされるメリットと地域への影響
- 今後の展望や利用する上での注意点
始まった牟岐線と徳島バスの共同経営とは

ここでは、徳島県南部で始まったJR牟岐線と徳島バスの画期的な共同経営について、その成り立ちから具体的なサービス内容までを詳しく掘り下げていきます。
- 共同経営導入の背景と目的
- 牟岐線と徳島バスの共同経営の概要
- JRきっぷでバスに乗れる共同運賃制度
- 共同経営で実現するダイヤ調整
- 利便性を高めるサービス向上の取り組み
共同経営導入の背景と目的
JR牟岐線と徳島バスの共同経営は、徳島県南部地域が直面する公共交通の課題を解決し、将来にわたって持続可能な交通ネットワークを維持するために導入されました。
その最も大きな背景には、人口減少や少子高齢化に伴う公共交通利用者の減少があります。特にJR牟岐線では、徳島駅と阿南駅を結ぶ区間に比べて、阿南駅から南の区間では利用者が少なく、2019年のダイヤ改正で一部列車の運行が取りやめになりました。これにより、阿南駅を境に南北で運行本数に大きな格差が生まれ、南部地域の住民や来訪者にとって利便性の低下が深刻な問題となっていたのです。
このような状況を打開するため、鉄道とバスという異なる交通モードが連携する必要性が高まりました。しかし、これまではJRと徳島バスの運賃体系が別々であったため、両者を乗り継ぐ際には、それぞれの初乗り運賃がかかっていました。これは利用者にとって実質的な値上げとなり、乗り換えをためらわせる大きな障壁だったと考えられます。
そこで、これらの課題を根本から解決し、利用者にとって分かりやすく使いやすいサービスを提供することで、公共交通の利用を促進し、経営基盤を強化することを目的として、両社による共同経営が計画されました。この取り組みは、競争から協調へと舵を切り、地域全体の足を確保するための重要な一歩であり、国土交通大臣から独占禁止法特例法に基づく認可を受けた、全国でも先進的な事例となっています。
牟岐線と徳島バスの共同経営の概要

牟岐線と徳島バスの共同経営とは、JR四国と徳島バスが連携し、徳島県南部の特定区間において、鉄道とバスを一体的な交通サービスとして提供する取り組みです。利用者は、どちらかの交通手段をより自由に選択できるようになり、利便性が大幅に向上します。
この共同経営の対象となっている路線は以下の通りです。
- JR四国 牟岐線:阿南駅 ~ 阿波海南駅 間
- 徳島バス 室戸・生見・阿南大阪線:阿南駅 ~ 海部高校前 間
この取り組みの核心は、主に二つの大きな柱で成り立っています。一つ目は、JRの乗車券類で徳島バスの対象区間を利用できる「乗車券の共通化」。二つ目は、鉄道とバスを乗り継ぐ際に運賃が割高にならないようにする「通し運賃の適用」です。
これにより、例えば「阿南駅から牟岐駅まで行きたい」と考えたとき、JR牟岐線の列車を待つだけでなく、タイミングよく来た徳島バスの高速バスに乗車するという選択が可能になります。利用者は、時刻表を見比べて、自分にとって最も都合の良い便を、同じJRのきっぷで利用できるようになったのです。この柔軟性が、共同経営がもたらす最も大きな変化の一つと言えるでしょう。
JRきっぷでバスに乗れる共同運賃制度
共同運賃制度は、この共同経営における利便性向上の要となる仕組みです。具体的には、JR四国が発行する乗車券類を持っている利用者が、追加の運賃を支払うことなく、徳島バスの指定された区間に乗車できるというものです。
対象となるJR乗車券類
この制度で利用可能なきっぷは幅広く、多くの利用者にとってメリットがあります。
- 普通乗車券
- 定期乗車券(通勤・通学)
- 回数乗車券
- 団体乗車券
- 特別企画乗車券(フリーきっぷなど)
バスの利用方法
JRのきっぷでバスに乗る際の手順は非常にシンプルです。
- 乗車時: バスに乗る際に、運転手に降車するバス停を伝えます。
- 降車時: きっぷの種類に応じて、運転手に提示するか、回収箱に入れます。ただし、その後にJR線へ乗り継ぐ予定がある場合は、きっぷは回収されませんので、そのままお持ちください。
利用上の注意点
この制度を利用する上で、いくつか知っておくべき注意点があります。最も重要なのは、対象となる徳島バスの路線が、大阪方面へ向かう高速バス「室戸・生見・阿南大阪線」であるという点です。このため、乗車できるのはバスの座席に空きがある場合に限られます。満席の場合は乗車できない可能性があることは、あらかじめ理解しておく必要があります。
また、共同経営の対象区間(阿南駅~海部高校前)を越えて乗車する場合は、区間外のバス運賃が別途必要となるため、降車時に現金での精算が求められます。
以下の表は、共同経営が始まる前のJRと徳島バスの運賃例です。この運賃差や、乗り換えによる二重払いが、共同運賃制度によって解消されたことが分かります。
区間 | JR四国 運賃 | 徳島バス 運賃 |
阿南駅 ~ 由岐駅 | 430円 | 600円 |
阿南駅 ~ 日和佐駅 | 630円 | 900円 |
阿南駅 ~ 牟岐駅 | 740円 | 1,100円 |
※運賃は改定される場合があります。上記は共同経営計画資料記載の一例です。
共同経営で実現するダイヤ調整

共同経営のもう一つの柱が、鉄道とバスの運行ダイヤを連携させることで、利用者の待ち時間を減らし、スムーズな移動を実現する「ダイヤ調整」です。これにより、単に運賃が共通化されただけでなく、時間的な利便性も大きく向上しています。
この取り組みによって、徳島県南部地域における公共交通の平均運行間隔は、共同経営が始まる前と比較して大幅に短縮されました。具体的なデータを見ると、その効果は明らかです。
- 上り(阿南・徳島方面): 平均96分間隔 → 平均72分間隔
- 下り(牟岐・甲浦方面): 平均100分間隔 → 平均74分間隔
これは、実質的に運行本数が増えたのと同じ効果をもたらします。例えば、阿南駅で列車を逃してしまい、次の列車まで1時間以上待たなければならない、というような状況でも、共同経営が適用されるバスがその間に運行していれば、それに乗車して目的地へ向かうことができます。
特にJR牟岐線では、阿南駅での乗り換えを考慮したパターンダイヤが導入されており、徳島方面からの列車と、阿南駅始発の高速バスとの接続が改善されています。利用者は、JRとバスの共同時刻表を確認することで、鉄道とバスを組み合わせた最も効率的な移動計画を立てることが可能になりました。このように、運賃と時間の両面から利便性を高めることで、公共交通がより身近で使いやすい存在になったのです。
利便性を高めるサービス向上の取り組み
運賃の共通化やダイヤの調整といった根幹的な取り組みに加え、利用者がより快適かつ安心して公共交通を利用できるよう、様々なサービス向上の試みが行われています。
その代表例が、JRと徳島バスの「共同時刻表」の作成と配布です。これまでは別々に確認する必要があった鉄道とバスの時刻が、一つの冊子やウェブページで一覧できるようになりました。これにより、利用者は双方の運行スケジュールを比較検討し、自分の予定に最適な移動ルートを簡単に見つけ出すことができます。特に、スマートフォンなどの操作に不慣れな方や、紙媒体での確認を好む方にとっては、非常に価値のある取り組みです。
また、情報提供の強化も進められています。JR四国や徳島バスの公式ウェブサイトでは、運行情報が随時更新されており、遅延や運休などの情報を事前に確認することが可能です。
さらに、今後の改善点として、バス停の環境整備も検討されています。例えば、利用者の多いバス停に待合室や屋根を設置したり、地域の拠点となる「道の駅」への乗り入れを実現したりすることで、待ち時間の快適性を高め、利便性をさらに向上させることが期待されています。これらの地道な取り組みが、利用者満足度を高め、公共交通の利用促進に繋がっていくと考えられます。
牟岐線と徳島バスの共同経営がもたらす変化

共同経営は、単に交通サービスを便利にするだけでなく、利用者や地域社会、そして交通事業者自身にも様々なプラスの変化をもたらしています。ここでは、その多角的な効果と今後の展望について解説します。
- 利用者にもたらされる共同経営のメリット
- 公共交通の維持と地域活性化への効果
- 実際に寄せられている利用者の声を紹介
- 今後の共同経営による展望と課題
- 持続可能な交通を目指す牟岐線と徳島バスの共同経営
利用者にもたらされる共同経営のメリット
牟岐線と徳島バスの共同経営は、利用者に「運賃」「時間」「選択肢」という3つの側面から、具体的で大きなメリットをもたらしています。
第一に、運賃面でのメリットは明らかです。前述の通り、これまでJRとバスを乗り継ぐ際に必要だったそれぞれの初乗り運賃が不要になりました。JRの乗車券類を持っていれば、追加料金なしでバスも利用できるため、特に定期券で通勤・通学する方や、フリーきっぷで旅行する方にとっては、交通費を大きく節約できる可能性があります。
第二に、時間的なメリットも非常に大きいです。鉄道とバスを一体のサービスと捉えることで、実質的な運行本数が増え、平均の待ち時間が20分以上も短縮されました。これにより、目的地までの所要時間が短くなるだけでなく、「次の便まで長時間待たされる」という精神的な負担も軽減されます。移動計画に柔軟性が生まれ、限られた時間を有効に活用できるのです。
そして第三に、移動の「選択肢」が格段に増えたことが挙げられます。例えば、「列車に乗り遅れたが、15分後にバスが来るからそれに乗ろう」「帰りは景色を楽しみたいから、海沿いを走るバスにしよう」といったように、その時々の状況や気分に応じて、最適な交通手段を選べるようになりました。これは、天候不良による遅延や運休が発生した際のリスク分散にも繋がり、より安心して移動できるというメリットも生み出しています。
公共交通の維持と地域活性化への効果
この共同経営は、利用者の利便性を高めるだけでなく、交通事業者と地域社会全体にとっても重要な効果をもたらします。
まず、交通事業者にとっては、経営基盤の強化に直結します。利便性が向上したことで、共同経営開始後の利用者数は想定を上回るペースで増加しました。これにより得られた増収は、赤字が続くローカル線の維持・運営にとって貴重な財源となります。共同経営の計画では、5年間の取り組みによって、JR四国で約14万円、徳島バスで約33万円の経常損失が改善されると試算されており、事業の持続可能性を高める効果が期待されています。
次に、地域社会にとっては、公共交通ネットワークの維持そのものが大きな価値を持ちます。安定した交通手段が確保されることは、地域住民、特に自動車を運転しない高齢者や学生の生活の質を支える上で不可欠です。
さらに、観光振興という側面でも大きな効果が見込まれます。「阿波室戸シーサイドライン」の愛称で親しまれる風光明媚な牟岐線と、海岸沿いを走るバス路線の連携は、観光客にとっての魅力を高めます。例えば、世界初の乗り物として注目されるDMV(デュアル・モード・ビークル)へのアクセスルートとしても、牟岐線の役割は重要です。交通の便が良くなることで、より多くの観光客がこの地を訪れ、地域の経済が活性化することが期待されているのです。
実際に寄せられている利用者の声を紹介
共同経営が始まって以来、利用者からはその効果を実感する様々な声が寄せられています。これらの声は、この取り組みが地域のニーズに的確に応えていることを示しています。
最も多く聞かれるのは、やはり運賃面でのメリットに関する肯定的な意見です。特に、毎日利用する通勤・通学客からは、「JRの定期券で高速バスにも乗れるようになったのは、本当に助かる」といった感謝の声が上がっています。急いでいる時や、電車の時間が合わない時にバスという選択肢があることは、日々の生活に大きな安心感と利便性をもたらしているようです。
また、観光で訪れた利用者からも、「鉄道とバスの時刻を一度に確認できる共通時刻表が便利だった」「フリーきっぷで両方使えるので、計画の幅が広がった」といった評価が聞かれます。
一方で、課題を指摘する声も存在します。例えば、「便利になったけれど、バスの運賃はもともと少し高いと感じる。利用者が少ないから仕方ないのかもしれない」といった、運賃設定と利用者数のジレンマに言及する意見です。また、JR牟岐線自体についても、「利用者が少なく、広々として快適だが、このままで維持できるのか少し心配になる」という声もあります。
これらの声は、共同経営が大きな成功を収めている一方で、地方交通が抱える構造的な課題が依然として存在することを示唆しており、今後のさらなる改善に向けた貴重な意見と言えるでしょう。
今後の共同経営による展望と課題

牟岐線と徳島バスの共同経営は、多くの成功を収めましたが、これはゴールではなく、持続可能な地域公共交通を構築するための新たなスタート地点です。今後の展望と、解決すべき課題について見ていきましょう。
展望:四国モデルの横展開
この徳島県南部での成功事例は、「四国モデル」として、同様の課題を抱える他の地域へ展開されることが期待されています。JR四国も、他の路線での共同経営を検討していると表明しており、この取り組みで得られた知見やノウハウが、四国全体の公共交通ネットワークの活性化に繋がる可能性があります。これは、全国の地方交通再生のモデルケースとなる可能性を秘めています。
課題:さらなる利便性と快適性の向上
一方で、解決すべき課題も残されています。
第一に、バス停の環境改善です。特に利用者が多いバス停や、雨風をしのげない場所にあるバス停に、屋根や待合施設を設置することは、利用者の快適性を高める上で重要です。
第二に、決済方法の多様化が挙げられます。現在、徳島バスの一般路線バスでは、全国で広く普及している交通系ICカード(SuicaやICOCAなど)が利用できません。現金や一部のQRコード決済に限られている現状は、特に観光客や普段あまりバスを利用しない人にとっては不便に感じられる点です。キャッシュレス化が進む現代において、ICカード決済の導入は、利便性を飛躍的に向上させるための喫緊の課題と考えられます。
これらの課題に一つずつ取り組んでいくことが、この共同経営をさらに進化させ、より多くの人々に選ばれる交通サービスへと成長させる鍵となります。
持続可能な交通を目指す牟岐線と徳島バスの共同経営
この記事では、JR牟岐線と徳島バスの共同経営について、その背景から具体的な内容、効果、そして今後の展望までを詳しく解説してきました。最後に、この取り組みの重要なポイントをまとめます。
- 徳島県南部の人口減少や公共交通の利用者減が導入の背景
- JR牟岐線の阿南駅以南と徳島バスの並行区間が対象
- JRが発行するきっぷで徳島バスの指定区間に乗車可能
- 対象となるきっぷは普通乗車券や定期券など多岐にわたる
- 鉄道とバスの乗り換え時に発生していた初乗り運賃が不要
- 利用できるバスは高速バス路線のため座席に空きがある場合のみ
- 鉄道とバスのダイヤ調整により平均運行間隔が約20分短縮
- 共同経営の開始後、利用者数は想定を上回り大幅に増加
- 利用者増による増収は交通事業者の経営基盤強化に繋がる
- 住民の生活利便性向上だけでなく観光振興への貢献も期待される
- 利用者からは「定期券でバスに乗れて助かる」など肯定的な評価
- 独占禁止法特例法の認可を受けた全国でも先進的な取り組み
- 今後の課題としてバス停の環境改善などが挙げられる
- 決済方法の近代化、特に交通系ICカードの導入が待たれる
- この「四国モデル」は他の地方交通路線のモデルケースとなり得る